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『知ってはいけない薬のカラクリ』谷本哲也   

 

知ってはいけない薬のカラクリ (小学館新書)

知ってはいけない薬のカラクリ (小学館新書)

 

 

おすすめ度: ★★★  (3つ星が最高点)

 

医者と製薬会社の不都合な真実を暴いた名著。

 

 医者と製薬会社の癒着については以前からずっと指摘されているが、客観的にその実態を明らかにできずにいた。ところが、マネーデータベース「製薬会社と医師」により初めてその実態が明らかにされた。このデータベースは、NGO・探査ジャーナリズムと医療ガバナンス研究所による共同プロジェクトの労苦の結晶である。

 

 本書によると、日本で働く約31万人の医者のうち、製薬会社から謝金などを受け取っていたのは約1/3。その95パーセントは100万円未満。100万円以上受け取っていたのは5パーセント。医者100人に1~2人は年間100~500万円、1000人に1~2人は年間500~1000万円受け取っていた。医者の世界であっても持てる者と持たざる者との格差が広がっていることがわかる。

 

 医者と製薬会社の癒着の好例として、高血圧の薬ディオバンのデータねつ造事件が紹介されている。高血圧の薬は患者数が多いうえ、一度飲み始めたらずっと服用することになるので、製薬会社にとっては膨大な収入につながり、魅力的な市場である。ディオバンは通常の高血圧の薬と比べると割高だったにもかかわらず、心筋梗塞脳梗塞などの血管の予防にもなるとの効用が、有力大学の行った臨床研究データで証明されたと喧伝されていた。ところが、そのデータがねつ造であることが発覚した。製薬会社は自分たちの開発した薬に都合のいい論文を書いてもらうために、医者へ多額の研究費を提供していたのだ。ねつ造した医学論文を道具に使って薬の販売促進をするという事件は、世界的に見ても前代未聞の大不祥事だった。

 

 医者と製薬会社の癒着を批判する一方で、私たち一般人に対しても警告を発している。

 たとえば、風邪にかかると、抗生物質を処方してほしいと、医者にねだる患者を取り上げている。抗生物質は風邪にまったく効果がないにもかかわらず、である。

「薬には副作用のリスクがつきまとう。飲まないで済むのであれば、それに越したことはない」

 著者のこの言葉にもっと耳を傾けるべきだろう。