『書評稼業四〇年』北上次郎
おすすめ度: ★★★ (3つ星が最高点)
『本の雑誌』の元発行人であった目黒考二は、北上次郎名義で書評家としても活躍している。書評家としてのデビューから現在までの四〇年間を綴った回顧録。
日の目に当たることの少ない編集者や書評家たちの裏事情がつぶさに綴られていて興味深い。優れた本が出版できるか否かは、作家の力量によるだけでなく、編集者や書評家たちの濃密な人間関係のうえに成り立っていることがうかがい知れる。
一般人には作家だけが注目されがちだが、作家、編集者、そして書評家が三位一体となって出版業界全体が活性化している状況がよくわかる。
本人は記憶力に自信がないと謙遜しているが、いやいやどうして当時の情景を目のあたりにしていると勘違いしてしまうほど鮮明に描写されている。喫茶店での編集者との打ち合わせ模様、作家や編集者を交えた居酒屋での飲み会など、その場に同席しているような臨場感がある。
昭和30年代から40年代にかけて、中間小説が隆盛を極めた時代があったことを初めて知った。中間小説という言葉自体がすでに死語となっているが、純文学と大衆小説の中間的な小説を呼ぶ。五木寛之や野坂昭如ら新たな書き手が颯爽と登場した当時の出版界の状況が熱く語られている。
源氏鶏太の作品を例に挙げながら、「小説が古びるのは、小説中の風俗が古くなるからではなく、主人公を支える行動原理が時代の変化に対応できなくなるからだ」との指摘はさすが鋭い。
本書の最大の魅力は、就職もせず本を読んで暮らしたいだけだった主人公が、同じく本を愛する仲間たちとの交流を通じて人生を切り開いていく最良の青春記になっていることだ。