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『巨乳の誕生』 安田理央

 

 

おすすめ度: ★  (3つ星が最高点)

 

 かつて男性は巨乳の女性に対して無関心であり冷淡だった、といったらびっくりするだろう。しかし、本書によると、大きな胸を性的な魅力であると、一般的にみなされるようになったのは、1990年代以降のことらしい。

 

 江戸時代、春画に登場する女性たちは男性と区別できないほど平坦な胸だった。そもそも女性の胸が描かれること自体、少なかった。混浴が日常であった当時、女性の裸は顔を見せるのと変わらなかった。また、女性の胸とは母乳を飲む赤ん坊のものであり、性的な器官とは思われていなかったのだ。

 

 1940年代~1950年代、外国映画で、ジェーン・ラッセル、マリリン・モンロージェーン・マンスフィールドらの登場によって、肉感あふれる女優が外国でもてはやされた。日本にもその余波が伝わり、ストリッパーや肉体女優が登場し、次第にバストがセックス・アピールのひとつと認知されていく。

 

 1970年代、ハワイ出身のアグネス・ラムや麻田奈美のリンゴ・ヌードの大ブームによって、徐々に大きな胸が市民権を獲得していく。

 それでもまだ世間では「大きな胸をした女性は頭が悪い」とか「性的感度が悪い」という俗説が信じられ、巨乳の女性は肩身が狭かった。1980年代のAVブームでも、胸の大きなAV女優は人気を勝ち得ることができなかった。

 転機が訪れたのは、1989年、AV界に松坂季実子がデビューし、外国人にも引けをとらない110センチのバストが大評判となり、ようやく巨乳が一般に認知される。これ以降、AV女優だけでなく、グラビア・アイドルもバストの大きい女性たちがもてはやされ、現代にいたる。

 

 もうひとつの本書の読みどころは、豊かな胸を表す表現の変遷である。1967年に大橋巨泉がテレビで朝丘雪路の胸をボインと評したことが発端。1970年代はデカパイが多用される。1980年代から1990年代はアメリカのアダルトマガジンに使われていたDカップという表現が日本でも定着した。AV女優の松坂季実子の登場以降、巨乳という言葉が一般的になる。かつては大きな胸を意味したCカップやDカップが珍しくなくなった現代においては、巨乳よりさらに大きいという意味で爆乳という言葉まで現れた。