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『宇宙はなぜ哲学の問題になるのか』 伊藤邦武

 

宇宙はなぜ哲学の問題になるのか (ちくまプリマー新書)

宇宙はなぜ哲学の問題になるのか (ちくまプリマー新書)

 

 

おすすめ度: ★★  (3つ星が最高点)

 

 「宇宙はなぜ哲学の問題になるのか」というテーマで、ソクラテスプラトンがいた古代ギリシャ時代まで遡って解き明かす知的冒険に満ちた一冊。

 

 ソクラテスプラトンは宇宙をどう捉えていたか?

 宇宙は確固たる数学的な構造であり、芸術的調和を体現している。一方、人の魂は何が科学的に真であり、何が芸術的に美であるか考える力をもっている。宇宙と人の魂は、別々に探究されるべきであるが、最終的には同じ構造をもっている。こうした思想に基づき、惑星の運行システムというアイデアを発明し、そのシステムを動かす宇宙的な魂の力について思索した。

 

 18世紀に生きた哲学者カントは、人間だけでなく、宇宙にいる知的生命体は私たちと同じ方法で幾何学の定理などを理解しているはずであると考えた。18世紀という時代に、すでに宇宙人の存在に言及したカントの先見性は驚異的ですらある。

 

 18世紀と現代では、比べられないほど宇宙の研究は進歩したが、現代物理学者が宇宙にいる知的生命体の存在を探ろうという計画の根本にあるのは、カントの思想から何ら変わっていない。つまり「人類が獲得した科学技術は普遍性をもったものであり、人類とは異なる知性をもった生命体であっても、同じ論理的な体系に行き着く」はずであるという確信である。

 事実、SETIプログラムでは、地球外文明からの信号を電波干渉計によって探知しようとする試みを継続している。

 

 ところが、哲学者たちからはこうした物理学者たちの主張を疑問視する声が有力である。

 なぜなら、仮に知的生命体からメッセージを人類が受信したとしても、その情報を翻訳するやり方が多すぎてどれが正しいか決定できない。さらに、メッセージを交換するためには、その交換を行う者同士の間に基本的な生活様式の共有がなければ成立しない。人類と知的生命体とはほとんど生活様式を共有していないと考えられる。したがって、私たちが宇宙の果てから電波のデータを大量に受け取ったとしても、その解読に成功し、コミュニケーションをできる可能性は非常に低いというわけだ。