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『熊と踊れ』 アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ

 

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 
熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

おすすめ度: ★★★  (3つ星が最高点)

 3人の兄弟、幼馴染の元軍人の4人がスウェ-デン軍の武器庫から大量の銃器を略奪する。彼らは奪った武器を元手に銀行強盗を始め、次々と現金強奪を成功させる。警察はその手口の鮮やかさからプロフェッショナルな犯罪集団と予想し、捜査を開始するが、一向に容疑者が浮かび上がらない。一方、順調に犯行を重ね、固い絆に結ばれたはず兄弟たちだったが、いつしか思わくの違いから仲間割れが生じ、犯行のほころびが拡大していく。

 

 銀行強盗の過程をつぶさに追跡した現在と、暴力的な父親により3兄弟と母親が翻弄されていく過去が、交互に描かれながら物語は進行していく。

 家族の団結という名の下に独裁的に家族を支配しようとする父、その父を嫌悪していた長男レオが、事件を起こすたびにいつしか父のように弟たちを支配していく過程が恐ろしい。

 

 もうひとつの物語の軸は、捜査を指揮するヨン・ブロンクス警部だ。彼は、数年前に妻と別れ、現在は独り身で孤独な生活を送っている。元妻も警察の同僚であり、鑑識官として事件の捜査にあたっていた。また、実兄は親殺しで刑に服していた。生まれ育った家庭が破たんしているという点において、彼もまた犯人の家族と共通している。

 

 本書は、1990年代初頭、スウェ-デンで発生した実在の銀行強盗を素材がモデルとなっている。執筆者のひとりであるステファン・トゥンベリは事件には加担していなかったが、犯行グループの兄弟のひとりであった。もうひとりの執筆者アンデシュ・ルースルンドは当時テレビ記者としてこの事件を取材していた。事件にもっとも詳しい因縁のふたりの共同執筆により、これまでにない臨場感を生み出している。

 

 手に汗握るスリリングな犯罪小説であると同時に、家族の絆の力強さと脆さテーマにした最良の家族小説にもなっている。家族の絆を見失ってしまった警察官と、家族の絆を死守しようとする犯罪者との対比が見事。北欧ミステリーの最高峰。