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『すべての医療は「不確実」である』 康永秀生

すべての医療は「不確実」である (NHK出版新書 567)

 

おすすめ度: ★  (3つ星が最高点)

 「これを食べればがんが治る」とか「これを飲めば痩せられる」などのエセ医療や健康食品の世間をにぎわすことが後を絶たない。

 本書は臨床疫学の専門である著者が「すべての医療は『不確実』である」との立場から、医学の限界を自覚しながらも、エビデンス(科学的根拠)に基づいた医療を追究したものである。

 

 よくある健康食品については病気を直接治す効果はないと断言する。では、病気に効果がある食事法とか何か?

 バランスのいい食事、腹八分目、よく噛んで食べることの3つが健康によい食事法であると指摘する。誰もが知っている当たり前の結論であるが、食事と健康との関係の意外性を求めるべきではないと釘をさす。

 

  ジャ-ナリズムの罪悪を警鐘している。

  タミフルが導入された当時、タミフルを服用した患者が異常行動を起こし自殺したとの事故が新聞やテレビでにぎわった。専門家たちはタミフルの服用が一因となっている可能性もあると指摘したにすぎなかったが、あたかもタミフルが直接的な原因であると断言した報道がされた。その後の調査で、タミフルを原因としたものではなく、インフルエンザの症状であることが判明し、当時の報道は誤りであった。

 

 子宮頸がんワクチンはほぼエビデンスが確立されたものだった。朝日新聞に、ある中学生がワクチンを接種したことにより、しびれなどの副作用が生じたという記事が掲載された。この記事が波紋を起こし、厚生労働省はワクチンの接種を「積極的な勧奨」から個人の「自由」と方針転換された。専門家によると、ワクチンと副作用の因果関係は考えにくいとの意見にもかかわらず、この点をマスコミは報道しなかった。将来、ワクチンの接種を受ける女性が減少した結果、日本では子宮頸がんが増加することになるだろうと警鐘を鳴らしている。

 

 これらの悪しき例は、エビデンスを無視した結果に生じたものである。私たちもマスコミによる煽情的な報道に惑わされることなく、しっかり事実に目を向けるべきだろう。