本のソムリエ

おすすめ本を紹介します

『落日の門 連城三紀彦傑作集2』連城三紀彦

 

落日の門 (連城三紀彦傑作集2) (創元推理文庫)

落日の門 (連城三紀彦傑作集2) (創元推理文庫)

 

 

おすすめ度: ★★ (3つ星が最高点)

 連城三紀彦の膨大な短編から選りすぐった傑作集の第2集。

 本書の白眉は『落日の日』として収められた5編。発表当時、話題にならず黙殺された作品で、一部のファンしか知られていない。埋もれてしまうには惜しい傑作揃いの短編で、本書に再録された意義は大きい。

 

 2.16事件にかかわった人物たちを中心とした疑似歴史小説。疑似歴史小説とは、実在の人物はひとりも登場せず、あくまで舞台装置として歴史上の事件を扱っていることから名づけられたもの。

 

 2.16事件の主犯格である安田、村橋ら青年将校たちと彼らを巡る女性たちによって、物語が進む。一編ごとに独立した短編ミステリーでありながら、大きな物語として緩やかにつながっており、長編ミステリーとしても楽しめる趣向となっている。最後を飾る『火の密通』を読み終えると、物語全体を覆う大きな謎解きが提示され、また最初に戻って読み返したくなること必至である。

 

 連城三紀彦にとって、最大のミステリーとは恋愛を巡る人間の心理にある。登場人物たちの心理が刻々と著しく変わることによって、次々と不可解な謎が発生する。連城マジックともいうべき、真実と嘘が目まぐるしく反転し続け、読み進めるにしたがって、軽い幻惑と陶酔を感じるほど。人工的な技巧の限りを尽くしているのに、読んでいる最中は物語の面白さに目を奪われ、その技巧を感じさせない読みやすさ。連城三紀彦の魔術的な筆致を堪能できる。