『アイドル、やめました AKB48のセカンドキャリア』 大木亜希子
おすすめ度: ★ (3つ星が最高点)
「卒業してしまったアイドルたちは、今、どうしているんだろう」誰もがときに頭に浮かぶ疑問だ。週刊誌でも「あの人は、今」といった記事がしばしば登場する。
本書は秋元康プロデュースSDN48のメンバーとして活躍した経験を持つ著者が、AKB48を卒業した元アイドルたちを訪ね歩き、芸能界以外で活躍している面々をインタビューしたものである。
一見きらびやかなアイドル業界は、場合によっては心身を蝕む過酷な世界でもある。
握手会は、アイドルにとって残酷な場所でもある。
河野早紀「握手会って、人気が数値化されるから怖いですね。私の隣のメンバーの子はファンの人の大行列ができていても、私のレーンには同じ人しか来ないんです」
自分の方がはるかに歌やダンスがうまいのにバックダンサーとしてしか出演できない、学校とアイドル活動を両立させるため、朝6時から深夜までフルで活動せざる得ない、といったこともアイドルの心身を壊す原因となる。「アイドルって頑張ったぶんだけ認められる職業でもない」(三ツ井裕美)からだ。
本書に登場する元アイドル8人のセカンドキャリアは多岐にわたっている。アパレル販売員、ラジオ局社員、保育士、バーテンダーなど、アイドルと無縁な職業ばかり。
でも、保育士になった藤本美月はこう答える。「アイドルの時はファンの人を笑顔にできるようにと考える。そして、今は園児を笑顔にできるように頑張る。環境は変わっても、やるべきことは一緒です」
本書を読んで救われるのは、過酷だったアイドル稼業を経験しながらも、元アイドルたちは、みな一様に「アイドルでいられたことは今の人生にプラスになっている」と述懐していることだ。「何があっても立ち上がる力を鍛えてもらった」(三ツ井裕美)
著者がいうように、最後尾でしか踊れなかったアイドルだって、「ステージの中央からではなく、端っこだからこそ見えていた風景と経験が、人生をより豊かにしてくれるはずだから」