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『淳子のてっぺん』唯川恵

 

淳子のてっぺん (幻冬舎文庫)

淳子のてっぺん (幻冬舎文庫)

  • 作者:唯川 恵
  • 発売日: 2019/08/06
  • メディア: 文庫
 

 

  おすすめ度: ★  (3つ星が最高点)

  女性として世界初のエベレスト登頂を果たした田部井淳子をモデルとした物語。

 

  小学生時代に、同級生の勇太たちと那須岳に登った体験から物語は始まる。淳子は父の望む大学に入学したものの、厳しい寮生活になじめず、心身症を患い休学してしまう。たまたま大学の同級生に誘われて登った御岳山が、山登りを再開するきっかけとなった。一ノ倉沢で幼馴染の勇太と再会し、本格的に山にのめりこみ、社会人登山会で活躍し始める。

 

  淳子の「山に登りたい」という純粋な思いの前に立ちはだかるのは、当時の頑強な男社会の風当たりの強さだった。「女が山に登れるのか」という山男からの嘲りと侮蔑。敵は男ばかりではなかった。古き時代の女性の幸せを願う母は、自分の目にかなう結婚相手を次々と淳子にお見合い話を勧めてくるのだった。母の反対に苦慮しながらも、淳子は同じ山友達の田名部正之と結婚を果たす。

 

  男社会を見返してやりたいという強い思いから、淳子は女性のみの登山隊の設立にかかわり、副隊長としてネパールのアンナプルナ登攀を目指す。ところが、同士であるはずの女性隊員たちと次々と確執が生じる。幼い子を育てながら、家庭と職場と山に遁走する淳子に対する隊員たちの無理解。隊員の誰もが登頂したいと願いながら、淳子とパートナー小百合の2人しかアタック隊に選出されなかったことへの嫉妬。登頂を果たしたものの、淳子はやり遂げた達成感よりも自分だけが登ってしまったという罪悪感に悩まされる。

 

  アンナプルナ登攀の成功後、ほどなくしてアンナプルナで隊長を務めた広田明子から、夢物語と思っていたエベレスト登攀を打診されるが・・・

 

  小説という形でしか真実を書けなかった物語だ。ノンフィクションでは、淳子をはじめとする主要な登場人物たちの心情に肉薄できなかった。女性登山家の黎明期に自分らしく信念を貫いて生き抜いた一代記。