『エベレストには登らない』 角幡唯介
おすすめ度: ★★ (3つ星が最高点)
角幡唯介は、これまでに『空白の5マイル』『漂流』など優れた冒険ノンフィクションを手掛けている。
本書は、アウトドア月刊誌『Bepal』に連載されたエッセイをまとめたものである。1回あたり5ページと手ごろに読めるが、冒険とは無縁の一般人には想像しがたい冒険家の日常生活や行動原理がわかる好エッセイとなっている。
角幡氏の冒険へのスタンスは、本書のタイトルである『エベレストには登らない』という言葉に言い尽くされている。世界最高峰を誇るエベレストはかつて常人には登ることのできない未知のフロンィアのひとつとして存在していた。ところが、登頂のノウハウが確立され、今では山岳ガイドが随行する「エベレスト登頂ツアー」で登るのが可能となっている。誰でも容易に登れる山ではないにせよ、冒険と呼ぶにはほど遠い存在の山となっている。冒険家として角幡氏はそんな観光化された地に行きたくないという矜持をもつ。
優れた冒険家が優れた書き手とは限らない。優れた書き手が優れた冒険家であることも稀である。角幡唯介は優れた書き手であり、優れた冒険家でもある、稀有な存在である。