『職業としての地下アイドル』 姫野たま
地下アイドル歴10年のキャリアをもち、2019年に卒業した姫野たまによる地下アイドル論。地下アイドルとは、テレビ出演ではなく、小規模なライブ・ハウスでの公演を主な活躍の場としているアイドルをいう。
著者は、地下アイドルになった女の子たちのきっかけやモーチベーションといった、誰もが知りたい質問を独自のアンケート調査によって明らかにしている。地下アイドル本人だけでなく、地下アイドルを応援するファンの実態や地下アイドルとファンの関係性にまで考察が及んでいる。地下アイドルは、ファンの存在があってこそ初めて存在しうる。ファンのいないアイドルなどこの世に存在しえない。したがって、地下アイドルを語るためには、ファンについても言及しないと片手落ちとなってしまう。
本書は、一見、社会的にマイナーな地下アイドルをテーマとしながら、現代若者論としても、現代文化論としても通用している。なぜなら、地下アイドルは一部の特殊な女の子ではなく、どこにでもいるごく普通の女の子たちであり、地下アイドルを応援する者たちもごく普通の一般人であるからだ。
「エピローグのようなもの」では、著者の地下アイドルとしての個人史が赤裸々に書かれている。友人からの誘いでひょんなことから地下アイドルになったものの、ファンやスタッフの期待に応えようとするあまり、うつ病を発症してしまう。いったん、引退するものの、周囲に流されず自分らしく生きることを決意し、また地下アイドルの世界に舞い戻る。今度こそ自分を見失うことなく、居心地によい確固たる居場所を見つける。地下アイドルになることは、自分探しの物語でもあったことがわかる。