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『AV女優』峰なゆか   

 

AV女優ちゃん1

AV女優ちゃん1

 

 

おすすめ度: ★  (3つ星が最高点)

 峰なゆかは、30代女子の本音をユーモラスに描いたベストセラー・マンガ『アラサーちゃん』の著者。

 彼女は明石家さんまが司会を務めていた人気テレビ番組「恋のから騒ぎ」に出演した後、生活苦と強引なスカウトによりAV女優になる。本書は彼女がAV女優として活躍した2000年代のAV業界を赤裸々に描いた自伝的マンガ。

 

 物語は、彼女が新宿歌舞伎町でスカウトされるシーンから始まる。彼女はスカウトマンに同行し、企画会社に売られにいく。彼女を一瞥した社員は、もっともギャラが安い「企画」女優と判定する。ところが、下着写真を撮ったところ、バストが大きいとわかり、「単体企画」にレベルアップする。さらに面接したところ、「恋のから騒ぎ」に出演したことが発覚し、もっともギャラが高額な「単体」と値付けされる。自分が値踏みされていく様を自虐的にこう描く。「ギャラの内訳、顔5万円、乳45万円、肩書き100万円」

 こうして、彼女のデビュー作は「恋のエロ騒ぎ」というタイトルで、キャッチコピーには「さ〇まさんごめんなさい」との文が添えられる。

 

 岐阜県の片田舎での報われない中高生時代、「恋のから騒ぎ」の舞台裏、そしてもちろんAVの撮影現場での面白エピソードがたっぷり楽しめる。ユーモラスな筆致の中にも、語られるエピソードには男性社会に対する辛辣な批評性がある。

 

 本書でもっとも衝撃的なエピソードは、サイン会での出来事。

 主演AV作品の販売にあわせて、彼女のサイン会が開催されるが、そこに集まるディープなオタクたちは入浴や歯磨きといった常識さえ身についていない社会的弱者ばかりだった。著者は入浴さえしていない男性たちの体臭に内心うんざりしながらも、握手とサインをこなしていく。そこに脚の不自由な障害者がやってくる。オタクたちは、脚を引きずる真似をして障害者をあざける。著者はそうした男性たちを見て、内心非難する。「弱者はさらなる弱者を叩く」と。サインの順番が回ってきて、障害者が彼女の前に立つ。彼は彼女に向ってこう言い放つ。「ブスでもおっぱいがデカいってだけでカネがもらえて、いい仕事だねぇ」

 次のコマでの彼女の言葉は、ナイフのように鋭利だ。「さらなる弱者はさらなる弱者だと認識した人間を見つけは叩く。自分より弱いと思える人間なんて滅多にお目にかからないので、わざわざ会いに行ってまで。だから私は弱者が嫌いだ。私は強者になりたい」