本のソムリエ

おすすめ本を紹介します

『浄土真宗とは何か』 小山聡子

 

浄土真宗とは何か - 親鸞の教えとその系譜 (中公新書)

浄土真宗とは何か - 親鸞の教えとその系譜 (中公新書)

 

 

おすすめ度: ★★  (3つ星が最高点)

 

 初心者でも0から浄土真宗を学べる最良の概説書。

 浄土真宗が成立する先史として平安仏教から掘り起し、法然から親鸞に連なる教え、親鸞の生涯、親鸞の死後の継承者たちの信仰、そして明治以降の教団活動を時系列順に網羅している。

 

 浄土宗は法然を開祖とし、阿弥陀仏にすがり念仏を称える他力による教えである。それ以前の自己の努力による修行で悟りを開く自力による教えとは大きく異なっている。親鸞は、幼少時に天台宗に得度したが、自力により悟りが開けないことを痛切し、法然の教えに帰依することになる。

 

 親鸞が生きた時代は、呪術が支配する世であり、病気の治療は医師によるだけでなく、僧侶が呪術によって治すことはごく普通に行われていた。近代的な合理主義者と称される親鸞といえども、呪術と無縁ではなかったことを数々の史料から明らかにしている。

 

 登場人物たちの臨終が詳細に記述されている。現代よりはるかに死が身近であった時代、いかに安らかに死を迎えるか、死後、極楽浄土に成仏できるかということは、仏教に帰依している僧侶や時の権力者である貴族であっても人生における最大の関心ごとであったことがうかがえる。

 

 本書が画期的なのは、これまでになかった新たな視点を提示していることにある。

 

 ひとつは、信者が唱える神格化された親鸞像ではなく、浄土真宗の長として、家族の長として苦悩する親鸞像を提示している点である。親鸞といえども、自身が唱えた他力の信心を揺るぎなく持ち続けることは難しかったし、門徒たちの訴えにこたえるため、長男善鸞を勘当せざるを得なかった父親としての苦渋もあった。

 著者はいう。「『人間が救われるにはどうしたら良いか』。そのことに苦悩し、自ら『愚禿』と称して揺れ動いた人間親鸞のほうが、理想化された親鸞よりも、よっぽど魅力的である」。

 同感である。

 

 もうひとつは、浄土真宗を平安仏教から断絶した革新的な宗派ではなく、天台宗の延長上に位置する宗派と捉えている点である。

 著者によると、現在の仏教史観は明治以降に形成されたという。興味深いのは、平安時代までの旧仏教と鎌倉期以降の新仏教の関係性は、西欧のキリスト教宗教改革と同列に位置づけられたことだ。つまり、カトリックに対抗する勢力としてプロテスタントが生じたように、新仏教は堕落してしまった旧仏教に対する批判的精神の下に成立したとする説である。しかし、法然親鸞の信仰は平安浄土教の影響下にあり、既存の宗派と比べて異質であったわけではないと著者はいう。

『定本 黒部の山賊』 伊藤正一

おすすめ度: ★  (3つ星が最高点)

 

 著者の伊藤正一は、24歳にして黒部にある三俣小屋の権利を買い取り、山小屋の経営を始める。本書は昭和20年代から30年代の山小屋での体験談をまとめたもので、山の名著として名高い。

 

 表題作である『黒部の山賊』とは、昭和20年当時、黒部周辺で登山客や地元民を狙って金銭をまき上げたり、時には殺害して物品を奪うなど、残虐な山賊がいるとの噂が広まり、警察沙汰となる。著者は山小屋を支障なく経営したいがため、友人とともに山賊が住むという小屋に捜査に出かけ、山賊と交流を結ぶことになる。実は、彼らは山賊などではなく、黒部の山中で暮らしていた4人の猟師たちであった。

 

 本書では山での興味深い話がたっぷり語られている。山中に埋められたという埋蔵金を探し回る男、神かくしにあった者、河童を目撃したという男、タヌキやカワウソに騙されたと信じる者たちなど不思議話に事欠かない。人間中心社会ではなく、人間と動物、そして幻の生き物たちが対等に存在できた最後の時代であったといえる。この時代の人間は、科学をむやみに信じるのではなく、自然に対して真摯な畏怖を持っていたといえる。

  

 近代化の象徴ともいえる黒部ダムの建設とともに、猟師たちが活躍した古き時代は終わりを告げ、山での摩訶不思議な出来事も消滅してしまう。昭和の『遠野物語』ともいうべき書。

 

ヤマケイ文庫 定本 黒部の山賊

ヤマケイ文庫 定本 黒部の山賊

 

 

 

 

『グラビアアイドルの仕事論』 倉持由香

おすすめ度: ★  (3つ星が最高点)

 

グラビアアイドルの倉持由香による芸能界で生き残るための仕事論。

 

彼女がグラドルに関心を持ったのは小学生の時、兄の部屋にあったエッチな雑誌だった。そのころから、恋愛対象は男性なのに、「エロ目線で女体を見る」ようになったという。

中学時代から芸能事務所に所属したものの、なかなか芽がでず、長い間悶々とした日々を送っていた。学校生活では小5から不登校であったり、大学でも一浪、一留、中退とダメ人間に陥りながらも、ようやくグラドルとしてのチャンスをものにする。きっかけはTwitterだった。撮影会で撮った写真よりも、自撮りした写真の方が、Twitterのフォロワーの反応がいいことに気が付き、自撮り写真を次々とアップしていく。彼女が偉いのはその発見を自分だけにとどめなかったことだ。常日頃から芸能界でのグラビアアイドルの地位の低さを嘆いていた彼女は、グラドル業界向上のため「グラドル自画撮り部」のハッシュタグを作り、グラドル仲間と協同してフォロワーを急増させていく。SNSを上手に活用して、ファンを獲得していく過程は企業戦略にも通ずる。

 

彼女が芸能界で生き残ることができたのは、所属事務所やマネージャーにまかせっきりにするのではなく、自分の商品価値を自己発見し、戦略的にセルフ・プロデュースした点にある。大半のグラドルの友人たちは自分の商品価値を見出せず、売れないまま、失意の中で芸能界から去ってしまった。

彼女の場合は、あるカメラマンからの助言を聞き入れ、コンプレックスであった100センチの大きなお尻をあえて強調し人目にさらすことで「尻職人」としての地位を築き上げることに成功した。

 

もうひとつ彼女が優れていた点は、男性目線で自分の商品価値を見極めることができたこと。ポーズの参考書は男性の妄想をかき立てるエロ漫画といいきる。幼いころに兄のエッチな雑誌を見ていたことが功を奏したのだ。パンツの食い込みシワや肉のムチムチ感がでるような写真を自撮りできる、そんな女優やグラドルなんてめったにいない。こうした他の芸能人との徹底的な差別化が、芸能界での確固たる彼女の居場所を作り上げた。

 

本書は、グラビアアイドルを目指している人や芸能界で活躍したいと思っている人はもちろん、一般のビジネス業界でも通用するようなヒントがたくさん詰まっている。「他人が登っている山には登らずニッチな場所をねらう」「人から応援されるためにはストーリー性が必須」「打算的に努力する」との指摘は大いに役立つだろう。