本のソムリエ

おすすめ本を紹介します

『働くおっぱい』 紗倉まな

 

働くおっぱい

働くおっぱい

 

 

おすすめ度: ★  (3つ星が最高点)

 

 著者は高専在学中にデビューした人気AV女優。これまでにもエッセイや小説を発表している。

 『働くおっぱい』というタイトル通り、AV女優という特殊な職業にまつわる日常生活が赤裸々に、かつ等身大で語られている。AV女優として生きていくことは、苦悩や理不尽な出来事の連続だった。

 

たとえば、

・職業記入欄にAV女優と記入したら、アパート物件が借りられなかった。

・プライベートではささやかな声しかで出さないのに、「マグロ状態」とレビューで酷評され、ウケる喘ぎ声を夜な夜な練習した。

・新郎を寝取ってしまうウエディングプランナーに扮した作品が彼女の最大のヒット作になった。一所懸命に演じた作品が売れてくれたことは嬉しいものの、私生活でこんな事態になったら「絶対許さない」と、作品とリアルな自分とのジレンマに重い悩む。

 

 こうした世間の不条理さと戦いながらも、デビューして7年目になりいつまでAV女優として続けていくことができるんだろう、と将来への不安が率直に語られていたりもする。

 

 特殊な職業に就きながらも普通感覚を失わない働く女性のエッセイ集。

『日本エロ本全史』安田理央

 

日本エロ本全史

日本エロ本全史

 

 

おすすめ度: ★★  (3つ星が最高点)

 

 戦後(1946年)から2018年までの主なエロ本100冊を時系列順、1誌につき見開き2ページで、創刊号の表紙やヌード写真、掲載記事をカタログ的に紹介している。

 

 ほとんどの雑誌は、創刊号とその後の紙面が全く違うことが記されている。よしにつけ悪しきにつけ、雑誌は売上がすべてであり、読者に受けいれられる紙面作りが至上命題であるため、変貌を余儀なくされる。

 

 雑誌が変貌していくもう一つの要因は、猥褻写真をめぐる警察の取り締まりやコンビニ販売の有無にかかわる。編集者の逮捕により雑誌が休刊したり内容を変更せざるえなくなる。また、コンビニで取り扱ってもらえるかどうかによって、雑誌の販売部数が大きく左右される。コンビニで販売できなくなったエロ本は否応なく休刊に追い込まれるからだ。

 

 エロ本がエロだけではなく、サブカルチャー誌としても重要な位置を占めていたことは驚きだった。ヌード写真さえ載せていれば、少数の読者にしか受けそうにないマイナー記事や反社会的でアナーキーな記事さえ掲載することもできた。主流ではない、もうひとつの若者文化を育む場所を提供していたといえる。

 

 著者はエロ本の編集者として30誌もの編集に携わり、AV監督やAV男優としても活躍した経歴を持つ。著者による「エロ本私史」は個人史であると同時に、1980年代~2010年代のエロ業界の通史にもなっており興味深い。インターネットの普及によって、半世紀以上続いたエロ本の歴史が終焉を迎えようとしている。

 

 本書を読んで感慨にふけった。社会現象となった女子大生ブーム、おニャン子クラブブルセラ、コギャルの流行は、現在、その痕跡すら残っていない。あらゆる風俗はあっというまに隆盛し、あっというまに衰退し、跡形もなくなってしまう。

 

 昭和から平成にかけての性風俗及びサブカルチャーを語るうえで欠かせない資料的価値満載の一冊。

『書評稼業四〇年』北上次郎

 

書評稼業四十年

書評稼業四十年

 

 

おすすめ度: ★★★  (3つ星が最高点)

 

 『本の雑誌』の元発行人であった目黒考二は、北上次郎名義で書評家としても活躍している。書評家としてのデビューから現在までの四〇年間を綴った回顧録

 

 日の目に当たることの少ない編集者や書評家たちの裏事情がつぶさに綴られていて興味深い。優れた本が出版できるか否かは、作家の力量によるだけでなく、編集者や書評家たちの濃密な人間関係のうえに成り立っていることがうかがい知れる。

一般人には作家だけが注目されがちだが、作家、編集者、そして書評家が三位一体となって出版業界全体が活性化している状況がよくわかる。

 

 本人は記憶力に自信がないと謙遜しているが、いやいやどうして当時の情景を目のあたりにしていると勘違いしてしまうほど鮮明に描写されている。喫茶店での編集者との打ち合わせ模様、作家や編集者を交えた居酒屋での飲み会など、その場に同席しているような臨場感がある。

 

 昭和30年代から40年代にかけて、中間小説が隆盛を極めた時代があったことを初めて知った。中間小説という言葉自体がすでに死語となっているが、純文学と大衆小説の中間的な小説を呼ぶ。五木寛之野坂昭如ら新たな書き手が颯爽と登場した当時の出版界の状況が熱く語られている。

 

 源氏鶏太の作品を例に挙げながら、「小説が古びるのは、小説中の風俗が古くなるからではなく、主人公を支える行動原理が時代の変化に対応できなくなるからだ」との指摘はさすが鋭い。

 

 本書の最大の魅力は、就職もせず本を読んで暮らしたいだけだった主人公が、同じく本を愛する仲間たちとの交流を通じて人生を切り開いていく最良の青春記になっていることだ。

『知ってはいけない薬のカラクリ』谷本哲也   

 

知ってはいけない薬のカラクリ (小学館新書)

知ってはいけない薬のカラクリ (小学館新書)

 

 

おすすめ度: ★★★  (3つ星が最高点)

 

医者と製薬会社の不都合な真実を暴いた名著。

 

 医者と製薬会社の癒着については以前からずっと指摘されているが、客観的にその実態を明らかにできずにいた。ところが、マネーデータベース「製薬会社と医師」により初めてその実態が明らかにされた。このデータベースは、NGO・探査ジャーナリズムと医療ガバナンス研究所による共同プロジェクトの労苦の結晶である。

 

 本書によると、日本で働く約31万人の医者のうち、製薬会社から謝金などを受け取っていたのは約1/3。その95パーセントは100万円未満。100万円以上受け取っていたのは5パーセント。医者100人に1~2人は年間100~500万円、1000人に1~2人は年間500~1000万円受け取っていた。医者の世界であっても持てる者と持たざる者との格差が広がっていることがわかる。

 

 医者と製薬会社の癒着の好例として、高血圧の薬ディオバンのデータねつ造事件が紹介されている。高血圧の薬は患者数が多いうえ、一度飲み始めたらずっと服用することになるので、製薬会社にとっては膨大な収入につながり、魅力的な市場である。ディオバンは通常の高血圧の薬と比べると割高だったにもかかわらず、心筋梗塞脳梗塞などの血管の予防にもなるとの効用が、有力大学の行った臨床研究データで証明されたと喧伝されていた。ところが、そのデータがねつ造であることが発覚した。製薬会社は自分たちの開発した薬に都合のいい論文を書いてもらうために、医者へ多額の研究費を提供していたのだ。ねつ造した医学論文を道具に使って薬の販売促進をするという事件は、世界的に見ても前代未聞の大不祥事だった。

 

 医者と製薬会社の癒着を批判する一方で、私たち一般人に対しても警告を発している。

 たとえば、風邪にかかると、抗生物質を処方してほしいと、医者にねだる患者を取り上げている。抗生物質は風邪にまったく効果がないにもかかわらず、である。

「薬には副作用のリスクがつきまとう。飲まないで済むのであれば、それに越したことはない」

 著者のこの言葉にもっと耳を傾けるべきだろう。

『日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』 近藤慎太郎

 

医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方

医者がマンガで教える 日本一まっとうながん検診の受け方、使い方

 

 

おすすめ度: ★★  (3つ星が最高点)

 

  著者は、山王メディカルセンターに勤める内視鏡検査や治療を手掛けてきた専門医。

 「日本一まっとうな」との言葉に偽りはない。胃がんや大腸がんなど主ながん10種類を懇切丁寧に説明している。専門的な小難しい説明は特技のマンガによりわかりやすく解説している。

 

 著者が誠実であると思うのは、がん検診によってわかることとわかないこと、治療で治せることと治せないことを忌憚なく述べてくれている点である。

 

  雑誌や一部の医者の中には「がん検診には意味がない」とか「がん検診によってがんの死亡率は下がっていない」など、がん検診の信ぴょう性に異議を唱える人たちが後を絶たない。最終章では、「がん検診懐疑派への反論」として、こうした懐疑派に対して明快な回答をしているので、ぜひ一読してほしい。

 

  著者が本書を執筆する動機にひとつとなったのは、健康格差が拡大していることへの懸念だ。毎年定期的に健康診断を受診している人がいる一方、仕事が忙しいなどの理由でほとんど健康診断を受診しない人がいる。前者は、日ごろから健康に関心をもっているのでより健康になるし、たとえガンが見つかっても早期治療を受けることができる。後者は健康への関心が薄く、ガンが見つかった時には手遅れになるケースが多い。

   早い段階で治療を始められるか否かは、生死に決定的な影響を及ぼす。早期発見できれば、医療者間の合意を得やすく、正解の治療法が見つかりやすい。一方、病気が進行すればするほど、状況が複雑になり、医療者間でも意見が対立し、何が正解か見つけづらくなるという。

『行ってはいけない外食』南清貴

 

 

おすすめ度: ★★  (3つ星が最高点)

 

 著者はフードプロデューサーであり、日本オ-ガニックレストラン協会代表理事を務める人物である。外食産業の内情にもっとも精通しているひとりといえる。タイトル通り、「行ってはいけない外食」と「行っていい外食」を指南し、飲食業界の内幕を赤裸々につづっている。

 

 一般人には驚くべき内情が全ページにわたって書かれている。

 たとえば、著者が本書で警告を発している「行ってはいけない外食」の一部は以下のとおり。

 

サラダバーの野菜

揚げ物

軟らかい鶏肉

真っ赤なウィンナー

業務用マヨネーズ

立ち食いそば

ファミレスのハンバーグ

 

 誰もがよく食べている外食ばかりである。

 「食べると危険だったの!」と驚いてしまう食品のオンパレードで、なぜこれらの食品を食べてはいけないのか知りたければぜひ本書を手に取ってほしい。

 

 著者が批判するのは悪徳食品業者ではない。安くて安全な食品を求めようとする、消費者である。著者によると、食品が安いということと安全であるということは相反する条件であるという。食の安さを追求しようとすると、農薬や化学薬品まみれの「安全でない食品」にならざるを得ない。一方、食の安全性を追求しようとすると、人手や手間がかかり、高価な食品にならざるを得ない。

 消費者が安さを求めるのなら危険な食品であっても甘受すべきであるし、安全性を求めるのなら、現在より価格が上がることを受け入れなければならない。にもかかわらず、安くて安全な食品を求めようとする無知な消費者が大半を占めていることにより、「安くて安全な食品」と喧伝する悪徳食品業者がはびこる結果を招いたという。

 

 こうした例のひとつとして霜降り牛肉が挙げられている。

 元々、霜降り牛とは但馬牛特有の肉であり、ごく少量しか取ることができなかった。ところが、多くの消費者が霜降り牛肉を求めた結果、生産者は牛をビタミンA不足することにより人工的に脂肪を形成させ、霜降り牛を大量生産しようと画策した。ところが、ビタミンA不足の牛は病気になりやすいため、餌の中に抗生物質ホルモン剤などを混ぜなければならない。つまり通常売られている霜降り牛肉は、高級な牛肉どころか健康状態の悪い牛肉ということになる。

 高級な肉を安く食べたいという消費者の無理な欲求が、いびつな生産者を生み出してしまった好例といえる。

 

 危ない外食を避け、正しい食のあり方を求める賢い消費者になるための、現代人の必読書。

『全ロック史』西崎憲

おすすめ度: ★★  (3つ星が最高点)

 

 

全ロック史

全ロック史

 

 

 

 タイトル通り、ロックの創成期から現代までを総括した全ロック史。年表、ミュージシャン・バンド名、アルバム名などの索引もしっかり整備され、読み物としてだけでなく辞書としての機能も兼ね揃えている。クラシックやジャズはこうした通史や概説書の類が多数出版されているが、ロックの場合は極めて珍しいので、貴重な一冊といえる。

 

 本文だけで400ページを越え、その情報量の多さに圧倒される。執筆に5年以上も費やしたと「あとがき」に書かれているが、当然である。膨大なバンドやミュージシャン名が紹介され、細かすぎるくらいロックのジャンル分けがされている。時代ごとにどのような音楽が大衆に流行したのか、どのような時代的な必然があってその音楽が発生したのかを理解するのに役立つ。当初は、ロックの歌詞を披露することを目的とする書物にする予定だったらしく、主要な曲の歌詞が掲載されている。ロックが同時代を表現する音楽として有効に機能していたことがよくわかる。

 

 ロックによる現代史というべき大著。